第3回目の本稿では、マレーシアにおいてご相談の多い、紛争を解決するためのマレーシアの制度についてQ&A方式で解説いたします。

Q1. マレーシアの裁判制度はどのようになっていますか?

A1. マレーシアの裁判制度は日本よりも多くの段階があり、紛争の種類や場所に応じて異なる特別裁判所も複数存在します。マレーシアでは、サバ及びサラワク州は多くの分野で異なる取り扱いがなされており、裁判においても同様です。マレーシアの裁判所は治安判事裁判所(Magistrate Court)、初級裁判所(Sessions Courts)、 高等裁判所(High Court)、控訴裁判所(Court of Appeal)及び連邦裁判所(Federal Court)により構成されています。
治安判事裁判所は、1級及び2級が存在し、1級はRM100,000を超えない訴額、2級はRM10,000を超えない訴額を取り扱います。
初級裁判所はRM1,000,000を超えない訴額を取り扱います。
サバ及びサラワク州においては、先住民裁判所(Native Court)が存在し、先住民法及び習慣に関する事項について取り扱います。それ以降は同じ構成ですが、サバ及びサラワク州とそれ以外の州とでは弁護士資格も異なります。

 

Q2. マレーシアにはいくつも裁判の種類が存在するのですか?

A2. マレーシアでは、通常の民事及び刑事裁判所以外に、以下の特別裁判所が存在します。
知的財産裁判所(Intellectual Property Court)、建設裁判所(Construction Court)、産業裁判所(Industrial Court)、労働裁判所(Labour Court)、イスラム法裁判所(Shariah Court)。
知的財産裁判所は、Trade Descriptions Act 1972, Copyright Act 1987及びOptical Disc Act2000のいずれかに基づく刑事事件を取り扱います。
建設裁判所は、Malaya高等裁判所の支店的位置付けであり、建物、エンジニア又はその他の建設に関連する紛争を取り扱います。
産業裁判所は、Industrial Relations Act 1967に基づき設置され、労使間の紛争、労働組合と使用者間の紛争、Industrial Relations Act 1967に基づく権利義務違反に関する紛争を取り扱います。
労働裁判所は、Employment Act1955に基づき労働者と定義される者に関する賃金の支払いなどを取り扱います。
イスラム法裁判所は、ムスリムの宗教倫理に関する事項などを取り扱います。

 

Q3.労働事件に関する紛争はどのような制度を利用することになりますか?

A3. 人的資源省労使関係局の斡旋、上記で述べた産業裁判所、労働裁判所が存在します。
流れとしては、労使紛争が発生し、当事者間で解決できない場合、労使いずれかが斡旋を申請します。それに基づき労使関係局長が労使を呼んで斡旋を行います。斡旋によっても合意に至らない場合、労使関係局長はその旨を人的資源相に報告し、人的資源相は案件を労働仲裁裁判所に付託します。州政府、地方行政機関は通常、労使紛争に直接介入しません。労使紛争は連邦政府が全国を直接所管しています。
産業裁判所は裁判官および労使委員で構成される司法機関であり、下級裁判所の機能を有します。したがって、産業裁判所の判決に不服の場合は、高等裁判所に上訴することができます。
産業裁判所と異なる制度として、労働裁判所が存在します。労働裁判所は人的資源省労働局が所管する準司法機関です。1955年雇用法に規定された労働条件の最低基準を使用者が遵守しないなどの労働者の苦情を審査する機関であり労働局担当官が裁判官の役割を果たします。当該苦情が個別的事件であっても、紛争になった場合は、所定の手続きを経て産業裁判所で取り扱われます。
また、1955年雇用法の適用対象労働者は月給RM2,000以下の労働者であるため、RM2,000を超える労働者との紛争については基本的に産業裁判所によります。また、労働事件であっても通常の民事裁判所を利用することも可能であるが、裁判費用が労働裁判所や産業裁判所の方が民事裁判所よりも低く済むため、通常はこれらの裁判所を利用します。

 

Q4. 裁判以外にどのような紛争解決方法が存在しますか?

A4. 上記の裁判制度以外に、マレーシア弁護士協会により設立されたマレーシア調停センターを利用する調停、クアラルンプール地域仲裁センター(Kuala Lumpur Regional Centre for Arbitration(KLRCA))を利用する仲裁を紛争解決手段として利用することもあります。
また、 マレーシアにおいて日本の判決をそのまま執行できるかについて、外国の判決をマレーシアで執行するためには、マレーシアの裁判所で承認または認証されることが必要です。英国などの英連邦国又は地域で取得した判決であれば、判決相互執行法(Reciprocal Enforcement of Judgment Act 1958)に基づき登録し、マレーシアの裁判所が行った判決と同様に執行することが可能ですが、日本は当該法律において規定されておらず、日本の判決の執行については、コモンローに従うことになります。

<筆者紹介>
堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD. 共同代表取締役兼弁護士(日本)
東京大学法科大学院卒。
ミャンマーのSAGA国際法律事務所(http://www.sagaasialaw.com/)代表、
タイのTNY国際法律事務所(http://www.tny-legal.com/)共同代表。
マレーシア法、タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD (https://www.mnavi.com.my/ja/product/detail/id=145/